ブログ名はいずれ考える。

日記やら感想やら。

【感想】セールスマンの死

f:id:ezotanuuu:20220611072510j:image

日時:2022/4/23 13:00開演
会場:PARCO劇場
上演時間:2時間40分(休憩20分含む)
公演詳細:セールスマンの死 | PARCO STAGE -パルコステージ-

 

初めてのPARCO劇場!通路よりも後ろの席でしたが、傾斜がかなりあって観やすいですね。幕間にテラスへ出られるのも良いと思います。終演後もテラスから階段降りて帰れます。わたしは終演直後に喧騒に包まれるのが好きではないので助かりました。

戯曲読むか、舞台を観るか、とにかく一度は触れておかなければと思っていた作品。今回ようやく観に行きました。

かつては敏腕セールスマンだったウィリー。63歳を過ぎて得意先が次々と引退し、自身のセールスの成績も思わしくない。妻リンダは献身的に支えてくれているものの、30歳を過ぎても自立できない2人の息子とは関係がよろしくない。過去の良き記憶と苦い現在が交錯して物語は進んでいく。固定のセットはほとんどなく、家の中やかつての庭などは可動式のセットになっていて、ゆっくりと彼のまわりを動きながら現れたり消えたりするその様が、ウィリーの過去と現在を行き来する脳内のようで良かったです。ウィリー役の段田さん、恐らく今回初めて観たと思うんですが、過去と現在の年齢の切り替えの自然さとか、声の響き、台詞の聞き取りやすさ・理解しやすさ等、流石ベテラン…!でした。

以下ネタバレです。結末の話もしてます。

妻や自慢の息子に尊敬される良き父親だったウィリー。家族の眩しい会話から、父親も息子たちも物事を誇張して自慢しているんだろうなということが見ていてわかるものの、あの家庭で育ってきたらああなってしまって弱みを見せられないんだろうなというのもわかる。わたしにとっては窮屈な家庭で、誰の感情にも寄り添えなくて、見ていて苦しかったです。夢見ていた幸せには現状はほど遠く、夢の分だけ自らを苦しめている。資本主義社会のお金・成功に縛られた夢ってなんだろうな……。身の丈にあった夢をとは思わないけれど、現実を直視できないで夢を見るのはまた別物だよな、と思います。現実が刻々と変わっていく中で、いつまでも現実の延長線上になりえない夢を見ていてもしょうがない。そして、過去の夢ばかり見ていても生きられない。
終盤に、父さんは特別なひとりじゃなくてひと束いくらの人間なんだよ、というような長男のセリフがあったんですが、これは働く前に見ていてもあまりぴんと来ないセリフだったろうなと思います。いまは会社員なので(笑)。

長男役の福士さん良かったです。長男、誰だろう気になる……と思いながら観ていたんですが、カーテンコールで手前に出てきてやっと顔が見えてわかりました。キャスト確認しないで芝居を観に行くので、だいたい終演後に気になった人の名前をチェックします(チケット取る時は確認しても観るころには一旦記憶から消えている)。スリルミーで観たときよりもさらに良かったなと思いました。福士さん、結構好きなのかもしれません。過去作、何か配信とかで見れたりしないかな。
最後のウィリーとのシーンは胸にくるものがありました。彼は10代後半の頃に、尊敬していた父親の不貞を知りそこから父親と不仲が続いていたのですが、最後に彼の気持ちが伝わったから、ウィリーの迷いがなくなって行動に移すのが、どうしようもなくていいですよね。いやよくないんですけと。なんと言うのかな、そうなっちゃうよなぁと思わずにはいられなかった。そこで止める綺麗な夢はこの物語に残されていなかったように思う。生きていてこそではないのかとは思います。でもウィリーを見ているとその結末は無かった。絡まった糸を解く作業ができたと思ったらウィリーはこの世を去ってしまって、遺された家族の気持ちははかりしれない。最後、家族が彼の不在を知る前に幕が下りるのがとても良かった。

固定のセットがほとんどないなか、初めから終わりまでずっと舞台中央に佇む黄色い冷蔵庫。タイトルとこの冷蔵庫で物語の結末は想像出来るのですが、じっとその時を待っている、というか、ずっとその影がちらついたまま物語が進行しているように感じました。見下ろす形で舞台を観ていたからかもしれませんが、誰かの感情に寄り添って観るのではなく、定点観察しているような感覚で、1人の人生が終わりへと向かっていくのを、記録として眺めているというか……。記憶のなかのウィリーの兄も、その存在がだんだんと死神のように感じられて、避けようのない終わりがじっとり湿度を持ってまとわりついているかのようでした。終わりの余韻がとても良かった。しずかに、そっと、ずしりと、その重さがこころの中心にのしかかるような。観終わったあともう少し鬱々とするのかと思っていたのだけど、そうではなく、ただ重しが残っていて良い余韻でした。



ところでバーナード(長男の友人)がゆ〜っくりと自転車を漕ぐのを見て上手いな…と思ったのはわたしだけではないはず。笑